
すれ違いが重なって運命になる。悲劇の展開、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」 |

自分の想像もつかないような事が起こった時、人はどんな反応を示すのだろうか。
泣く? 笑う? 唖然とする?
色んな想いがいっぺんに降り注いだ時、 「笑いながら泣いてしまう」時が来るのだろう。 絶頂から絶望へと。 その気持ちが落ちていってしまった時に。
ただ泣くだけではあまりにも悲しすぎる状況だから。
ページをめくるのが今回ほど怖い回はなく、 そして衝撃の結末が待ち受けていた・・・! それはまさに「悲劇」と呼ぶにふさわしい展開だろう。 そんな「ボーイズ~」の“ちはるちゃんお見舞い編”を振り返ってみよう。
■【会いたいから、会いに行く】 あの衝撃の夜が明けた翌週。 いつも通り会社に行ってみると、愛しのちはるちゃんが・・・いない。 同僚に聞くと今日は風邪で休みだと言う。 心配でメールをしてみると、思ったよりもヒドイ状況のようだったのだが、 ちっとも田西を頼る感じはなかった。 そんなちはるが心配になった田西は・・・

彼女が住む街へと来てしまった。
心配で。 いや。 会いたかったから。 大好きなキミに会いたくて、来てしまった。
恋は、時に思いもがけないパワーを人にくれるものだと思います。 普段だったら絶対しない行動をしてしまう力を。 どっから湧き上がってくるものなのか・・・ぐんぐん出てきてしまう。 大好きな人への気持ちが溢れてしまってるからなんだろうなぁ。 溢れてしまったものが、そのままそのパワーに変換されるんでしょう。
年賀状に書かれた住所を頼りにここまで来たけれど、 ちはるちゃんに了解を取ったわけではなかった。 来た事を伝えようと彼女にメールを送るが・・・ 返ってこない。 寝てるかもしれない。だから気付かないだけなんだと。 帰ろうと思ったその時、ちはるちゃんからのメールが届く。
「うれしい!ずっと独りでさみしかったの・・・」
是非お見舞いに来て欲しいとの事。 感極まった田西は、早速スーパーへ行き精のつく食べ物を買い、 薬局で薬を買い・・・一応、ゴムも買っておく。 一縷の望みというか期待を頂いてしまうのは男なら誰でも、ですよね。
さて住所を見ながらちはるちゃんの家へと進んでいくが・・・ その途中にはソープ街が。 ワイルドなところに住んでるなぁ・・・と思っていたら、 着いてしまった。 大好きな、ちはるちゃん家に。 その扉の前に立ち、再び感極まった時、その扉が突然開く!!
 「? あんた誰?」
確かに植村と書かれた表札。 その部屋から出てきたのは田西の全く知らない女性だった!? 間違えたと思ったその瞬間、「あんたが田西か」と言われ・・・!?
■【ちはるちゃんの、部屋で】 彼女に言われるままに部屋に入っていき、そこにいたのは・・・
 「な、なんで田西さんが?」「?」
田西が来た事を、驚いているちはるちゃんがいた。 え? な・・・ん・・・で・・・?
そしてその横で笑い転げている、知らない女性。 ちはるちゃんが「しほちゃんっ!!!」と呼ぶ女性。
そう、しほと呼ばれる彼女が勝手にちはるの携帯をいじって返事をしたのだ。 想定外の出来事に戸惑う二人。 けれどそのしほちゃんの計らいが、二人を引き合わせてくれた。
そんなしほちゃんは、ちはるちゃんの隣の部屋に住む現役ソープ嬢。 暇だった彼女は、ちはるの部屋に遊びに来ていたのだった。 そして出勤時間だからと部屋を出て行くしほちゃん。
今、この部屋には田西とちはるの・・・二人しかいなかった。

その部屋に香る、ちはるちゃんの甘い匂いにようやく気付く田西。
とにかく必死に看病する為に生姜入りの紅茶を作ったり、 ネギをタオルに入れて首にまかせたり・・・ 一生懸命な田西。 一通りの看病が住んだので帰ろうとする田西に・・・
 「ダメェ。もうちょっと一緒にいて」
ぬぉおおおお。 最強の可愛さですねコレ。 手を伸ばして、まだ一緒にいたい・・・そんな意思表示されたら、ねぇ? もう男ならイチコロです。 手を差し出されるのって、すごく嬉しい事なのですよー 自分を認めてくれてるっていうか。何かこう、必要とされてる感じがイイのです。
そしていつやらちはるちゃんは寝てしまい・・・ 書き置きしてさて帰ろうと思ったその時、マンションの入り口で泥酔している人が・・・
 「し、しほさん!?」
仕事帰りの・・・しほがそこに、いた。
■【ちはるちゃんの、隣の部屋で】 そのまま放っておくわけにもいかず、 担いでしほの部屋まで送っていく田西だが・・・ 玄関でまた寝てしまうしほをベットまで運ぶ。 が、そこで帰ろうとまた玄関に向かう・・・が。
「せっかくだから、あたしの肩もんでいきなさいよ」
という鶴の一声でそのまま終電を越えてしほの部屋にい続ける事に・・・ その間にちはるちゃんの自分に対する想いを聞く田西。 あのラブホテルに泊まった金曜の夜・・・ちはるはやりたかったと言う。 そんな微妙な女心に混乱しながらも、今目の前にいるソープ嬢に欲情する田西。
このままではあっさり過ちを犯してしまう。
どうする!? 考えた結果、出してしまえば問題ない、 という事でしほの部屋のトイレでオナニーする事にしたのだが・・・

そんな場面をしほに見つかってしまう田西。
大爆笑のしほ。 その声がちはるに聞こえてしまうのではないかと焦る田西。 下半身丸出しのまま、また部屋に戻っていく。
ギラギラにたった「それ」を見たしほが・・・
 「ぬいてやろうか?」「へ!?」
トンデモナイ提案をしてきたのだった。
そして一方その頃、眠りについたちはるちゃんが目を覚まし、 田西への想いを募らせていた。 そんな彼女に、一通のメールが届く・・・
■【幸福と悲劇は紙一重】 その甘美な誘いに大きく心が揺らぐ田西。 いや揺らぎますよ。これで揺らがない男はいないでしょう。 たまってる時に、現役風俗嬢から言われてごらんなさい。 これで揺らがなかったら何かがおかしい。 その先一歩を踏み出すか踏み出さないか、ここから問われるのは想いの強さ。
大好きなちはるちゃんの為に、その誘惑に頑張って勝とうとするのだが・・・ 「フェラは浮気のうちに入らない」というしほの言葉に揺らいでしまう。 隣でちはるちゃんが寝ているので、生フェラは無し、という事になり 薬局で買ったゴムがここで思わぬ活躍をするのだが・・・ さあいよいよ開始!というところでちはるちゃんの顔が脳裏によぎる。
寸前でストップをかける田西。
 「せっかくの好意を無駄にしてすみませんが、お、俺にはやはりちはるちゃんが」
とチンコ立てながら宣言。 よく言った!よく言ったよ田西! スピリッツ読者の男性は全員涙してる。 ここでそう言えるやつは全男子人口の1%にも満たないのではないだろうか。
男だ田西!と感動してたその矢先、 しほが最後いきり立ったチンコを・・・
 「あんたも寸止めで大変ね」「!!」
限界の限界まできてた「そいつ」はそのなでなでで・・・出てしまった。 ドックンと。ドクドクと。
そして次の瞬間、更にとんでもない事態が田西を待ち受けていた。
 「しほちゃーん」
隣で寝ていたハズのちはるちゃんが・・・しほの部屋に入ってきたのだ!! あまりに突然の出来事。 とっさに洋服タンスのドアの陰に隠れる田西。
田西の看病がきいたのか、すっかり元気になったちはるちゃん。 しほに話があるという。 ずっと、ずっと考えていた人の事で。 手ひどくフラれた、この間までの恋愛。 だからもうコリゴリだと思っていた。
けれど、けれど・・・!
 「私、田西さんのこと好きになっちゃった」
衝撃の告白・・・! ついに、ついに想いが通じ合ったのだ。 ちはるちゃんの心の氷が解けたのだ。 壁が、取り払われたのだ。 そして当の本人は、ドアの影に、下半身むき出しのゴム装着(発射済み)でいたのだった。
空回りだけど一生懸命なトコが好き。
大好きな子は、見ていてくれた。 ちゃんと、見ていてくれた。 そんな想いを、すぐに伝えたい。 大好きな・・・田西に。
スっと携帯を取り出すちはる。
その指で、大好きな人の元にダイヤルする為に。
 「田西さんに言うの。好きだって」
今、その想いがものすごく強いから。 薄れてしまわないうちに、この想いを伝えてしまいたい。 そう思い、電話がかけられる。 田西の携帯へと。
今田西の手の中にある、携帯へと。
その着信音は、自分の後ろのドアから聞こえてきた。
え・・・

絶望的な、状況。
下半身むきだしで。 ゴムつけてて。 もうすでに出ちゃってて。
何も、言い訳が出来ない。
何も、悪い事はしてないハズなのに。
キミへの想いを、貫いたハズなのに。

すべてが終わってしまった夜。
二人の心は一瞬だけ繋がって、次の瞬間、信じられないほど遠く離れてしまった。 通じ合っていたハズなのに。 幸せになれるハズだったのに。 ほんの少しのすれ違いと、運命のイタズラが、 悲しすぎる「悲劇」を生み出してしまった。
これが恋愛か。
幸せと悲劇は常に表裏一体なのかもしれない。
どんなに幸せな状況になっても、たった一つの事で全てを失ってしまうかもしれないのだ。 そう思うと、ホント怖いと思うのだが、 それもまた人生、そして運命なのだろう。はぁ・・・可哀相すぎる田西に合掌、です。
■【まだ、ドラマは終わってない】 というわけで確実にもうダメダメな展開になってしまった田西。 こ、これはねぇ・・・いくらしほちゃんが弁明してもダメだろうし、 何より弁明しなそうだしなぁw いや、正直田西が過ちを犯すのは犯すと思ったんですよ。 けど今回男を見せてやるじゃん!と思っておきながら、 この結末は・・・いやはやハラハラドキドキ、全くよめませんでした。
ホントに可哀相で、このレビュー書こうと思うまでもう1回読めなかったぐらいですから。
個人的には好き合ってる同士がくっつけないのってホント悲しいと思うのですよ。 勿論恋愛はそれでも上手くいかないから恋愛だって、河下先生も言ってましたけど。 この展開はなぁ・・・はぁ。やるせない気持ちになります。
◆ちはるちゃんはこれで戦線離脱か!?いやいや・・・
 「また青山さんだ…」
真夜中にきたメールの送り主。それは青山くんだった。 田西と、ちはるをくっつけてくれた・・・青山くん。 いつちはるの連絡先を聞いていたのか? そして彼のアタックは・・・この前言っていたアレか。
 「時々、隣の芝がすっげえ青く見えるんですよね」
人のモノが欲しくなる・・・青山くん。 登場時からずっとこの展開になるだろうなぁと思っていましたが・・・ 次回、傷心のちはるちゃんを青山くんが付け込むのか!? この伏線があったからこそ、この先まだドラマは待っているという事になるのだ。
◆役者が揃いつつある・・・ボーイズ・オン・ザ・ラン それぞれの登場人物が少しずつ交錯していき・・・運命も交錯していく。 大きな波があり、小さな波があり、少しずつ進んでいく物語。 9回裏の青春は、長い長い延長戦へと入っていく・・・
この遅咲きの青春劇は、また始まったばかりなのだ。
------------------------------------------------------------------- ■【花沢健吾作品バックナンバー】 ◇青春は、まだ終わってない。「ボーイズ・オン・ザ・ラン」第1巻発売!! ◇天国と地獄が駆け巡る、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」 ◇守れるか、本気になれるもの。衝撃の展開、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」 ◇【花沢健吾特集・後編】遅咲きの青春を駆け抜けろ!「ボーイズ・オン・ザ・ラン」 ◇【花沢健吾特集・前編】ルサンチマンをもう一度読み解く! ◇その世界は現実よりも現実なのだ「ルサンチマン」 花沢 健吾
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青春は、まだ終わってない。「ボーイズ・オン・ザ・ラン」第1巻発売!! |

痛みを知る、すべての男たちへ。
あるいは、すべての痛い男たちへ。
この「ボーイズ・オン・ザ・ラン」第1巻の帯にはそう書いてある。 そう、全ての人は痛みを抱えている。 勿論その種類や、性質や、重さは人によって違う。
何も出来ない自分。
正しいと分かっていても、それを出来ないでいる自分。
一生懸命になれているか? 10代の頃、何も考えずがむしゃらになって頑張っていたあの頃のように。 いや、もしかしたら今まで俺は頑張ってきてなかったのかもしれない。 本当に辛い事からは逃げていてばかりだったのかもしれない。
20代後半という年代。 奇しくももうすぐ26歳になる俺と、この主人公田西の年齢はほぼ一緒なのだ。 「大人」というカテゴリに慣れ、 「少年」というカテゴリを忘れてきてしまっている自分。
自分では意識すらしていなかった。
いつの間にか、「少年」の心を忘れてしまっているなんて――――
好きな子と手を繋ぐドキドキ。 好きな子にもっともっと触れたいという葛藤。 欲望と、理性の狭間で戦う自分。
今も無いわけじゃない。 けれど、あの時感じた胸の大きな鼓動は、ずっと感じていない。
そんな忘れかけてた胸の鼓動を。 思い出させてくれる。 それが、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」

青春を忘れかけた人へ。オススメします。
新たな花沢伝説はココから始まる。
------------------------------------------------------------------- <1巻のストーリー&レビュー> この2つの記事で1巻の内容は全てカバーしております。 「ボーイズ・オン・ザ・ラン」の魅力はこちらでドーゾ!
◆遅咲きの青春を駆け抜けろ!「ボーイズ・オン・ザ・ラン」 →ストーリー・キャラ紹介。1~9話まで解説
◆守れるか、本気になれるもの。衝撃の展開、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」 →第1巻の最後に当たる、衝撃の第10話をレビュー
◆ボーイズ・オン・ザ・ラン書店用POP(ホワイトデータマンションさんより) →誕生秘話や今後の展開などの解説がアリ!
------------------------------------------------------------------- <花沢健吾作品バックナンバー> →天国と地獄が駆け巡る、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」(注:2巻のネタバレ有り) →守れるか、本気になれるもの。衝撃の展開、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」 →【花沢健吾特集・後編】遅咲きの青春を駆け抜けろ!「ボーイズ・オン・ザ・ラン」 →【花沢健吾特集・前編】ルサンチマンをもう一度読み解く! →その世界は現実よりも現実なのだ「ルサンチマン」 花沢 健吾
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天国と地獄が駆け巡る、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」 |

無力だった。
好きな「女」を守れなかった。
田西は思う。
「勝てるわけないけどさ、男ならやらなきゃいけない時があって、 それがまさにあの時だったのに、何も出来なかった」
長い、一日が終わった。 天国から地獄へ。そして・・・?
一歩先は何が起こるか分からない。 それが青春。 遅咲きの青春を駆け抜ける「ボーイズ・オン・ザ・ラン」 過去2回特集をしたが、
<参考> →遅咲きの青春を駆け抜けろ!「ボーイズ・オン・ザ・ラン」 →守れるか、本気になれるもの。衝撃の展開、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」
3回目の特集である今回は、 この「長い一日」の顛末を振り返ってみようかと思う。
例えば自分が同じ場面に遭遇したらどうするのか?
守れるのか?
大事な人を。
そんな想いに駆られながら読んでしまう、それが「ボーイズ・オン・ザ・ラン」であり、 この作品の魅力なのだ。
では振り返ってみよう。
■【地獄の始まり】 衝撃のラストで幕を閉じた第10話。
白スーツのヤクザに、顔面を、一発。
倒れこむ田西。 が、ヤクザは田西が倒れこむ事を許さない。

テレクラに行ったこと。
「まゆみ」と呼ばれる女とホテルに行った事。
それらの事実を確認される。 最初は否定する田西だったが、一発、二発と殴られ・・・否定し続ける事が出来なかった。
そして「中出し」の濡れ衣まできさせられそうになる。
やってすらいないのに。 逃げ帰ったのに。
様々な考えが頭の中を駆け巡り、 田西は「楽」な方を選んでしまう。 暴力に・・・屈するという事。

 「やりました。中出ししましたぁ~~~」
大好きな子の前で。 ちはるちゃんの前で。 最悪の事を、発言して認めてしまう。
読者から見ればこの田西の行動は非難されるかもしれないが、 やはり「突然の暴力」「抵抗できない暴力」に対面した時、 人はその思考を通常通りに保てるとは限らない。
「自分はそんな、認める事なんてしない!」
と思うのは、今自分が「安全な場所」にいるから。 一度「危険な場所」に身を置かれた場合、 その思考は一変する。
それが普通なのだ。
人は誰もが「苦痛」から逃れたいと思っている。 肉体的な痛みや、精神的な痛み。 その方が「楽」だから。 けれど逃げてばかりではダメな時がある。 立ち向かわなければならない時がある。
ほんの少しの、いや、大きな・・・勇気を持って。
 「ちょっとお願い。本当にもうやめて」
自分が守るべきモノに、守ってもらっている。
男として、本当に情けないと思う瞬間だろう。 けれどそれにすらすがりたい状況でもあった。 どうすればこの「悪夢」は終わるのか。 田西が考えているのは最早それだけだった。
ヤクザが要求してきたのは「土下座での謝罪」と「事務所での話し合い」
ちはるは勿論それを受ける事は無かった。 それがヤクザからの要求だから。 そしてヤクザの矛先は再び田西へと。 「早く帰りたいならお前からも頼めよ」と促される。
早く帰りたい。
田西の頭の中にある事はそれだけだった。
・・・それだけだったハズなのに。
 「いやだ」
少年の中の「男」がその姿を魅せた。
初めて、田西はその理不尽な「暴力」に抵抗する道を選ぶ。 ここで見せた彼の「男」が、 この地獄を抜け出すきっかけとなる。
弱き男の、最後の意地。
それはとてもか細いものかもしれないけれど、 その姿を見せた「勇気」は、やはり強い。
そしてこの窮地を救ったのはヒーローではなく・・・ヒロインだった。
■【ヒロイン、登場】

そう、役者は揃ったのだ。
第1話で、田西の事を間違って殴ってしまったジャージ姿の女の子。
「池袋」の地で、再び田西と彼女は出会う。 二人が出会うのはいつも窮地の時だった。 この悲劇を終わらせる為に、彼女は現れた。
後ろからヤクザを踏みつける。 その行動は、自信の現れ。 ヤクザに対抗できる「力」を持っているという、自信。その「力」の使い方の心得を支えているのは、経験。
そんな彼女がヤクザに立ち向かう。

頭をポコンと殴り・・・
様々な技で、ヤクザを翻弄する。 足踏みをし、動きを止めて・・・

ヒジ打ち。
寸での所でかわすヤクザ。 けれども彼もそのプライドにかけて負けるわけにはいかなかった。 だが、機転をきかせた彼女の守りと、そして電光石火のパンチに、 ヤクザは倒れてしまう。

その光景に、田西は自分がボクシングでKOをしている妄想をする。
そのパンチで勝利を掴み、スポットライトを浴びる・・・
けれどそれは妄想でしかなかった。 現実は違う。 地面に倒れているのは自分で、スポットライトを浴びているのは・・・ ジャージ姿の女の子だった。
何も出来なかった・・・自分の力の無さを痛感する田西。
 「お、俺、俺、何もできなかった・・・ごめんなさい」 「あやまっちゃ、ダメぇ~」
少しずつ意識がしっかりしていく中で、 思い出すのは自分の無力さ。かっこ悪さ。 出来る事は・・・謝るという事だけ。
悲劇はこれで幕を閉じる。
だが「長い一日」の幕は、まだ下りていなかった。
■【かっこ悪くないよ】 平穏な日常が戻ってきた。 今歩いているのは、いつも通りの池袋。 街行く人もただ、すれ違うだけ。 違うのは・・・自分の後ろにちはるちゃんがいるという事。
傷ついた田西をほっておけないと言うちはる。 ほっておいてほしいと言う田西。
二人の意見がすれ違う。 そして・・・ 「昨日はあんなに、やさしかったのに」というちはるに対して田西は逆キレしてしまう。
 「やっ、やさしいだけじゃ何にもなんねーよ。見たでしょっ、俺のブザマな姿!」
優しいだけじゃどうもにならない時がある。 時に男が対峙する「理不尽」な出来事。 それに対抗できる手段の一つが、「力」。
それは腕力でもいい。知力でもいい。
その場を切り抜ける「力」。 それを持ってなかった田西は、やはり自分を責めるしかなかった。
・・・そして田西はちはるから逃げる。 ケンカしたまま。最悪の別れ方をする。
辿り着いたのは、都会の中にポツンとある神社。 そこで思い返す。先ほどの惨劇を。 何も出来なかった自分を、もう一度噛み締める。
冒頭であげた言葉をもう一度あげてみよう。
 「勝てるわけないけどさ、男ならやらなきゃいけない時があって、 それがまさにあの時だったのに、何も出来なかった」
確かに人生には何度かそういう事が訪れるのだろう。 ずっと平穏無事で済む人生なんて早々ない。 何かしらの壁が、障害が、悲劇が自分を待ち受ける。 そんな時、それを乗り越えるのは・・・自分の勇気。
勇気を創り出すのは、自分が培ってきた「力」
その「力」が無くても・・・「意地」がある。 田西が見せたのはまさにその「意地」だったのだ。
けれど「意地」だけじゃどうにもならない時がある。 それが今日の出来事だった。 それが分かってるからこそ、田西は大きく落ち込む事になるのだ。
そしてそんな田西を救うのは・・・女神。
 「ばかっ。ばかっ。ばかっ。」
ちはるちゃんが田西を捕まえた。
追いついてきた。見つけてくれた。 絶望の淵にいた田西を、もうこれ以上深く落ち込まないように。
激しい息遣いは見つける為に沢山走ったから。 その涙の跡は、田西の事を心配していたから。 その言葉は、田西への想いが込められていた。
田西を元気づけるちはる。
謝る事しか出来ない田西。
ちはるちゃんに謝ったのは「ブザマな姿」を見せた事じゃない。
 「(好きな女ひとり守れないなんて、)かっこ悪い・・・・・・」
ちはるちゃんを守れなかったこと。 本気になれるもの。 そう決めた・・・大好きなちはるちゃんを。
自分の「力」で守る事が出来なかった。
そんな自分がとてもかっこ悪く思えて、仕方が無かった。
 「・・・・・・田西さんはかっこ悪くないよ。」
たった一度、田西が魅せた「男」。 その頑張りを、ちはるは認めてくれた。 複雑な気分ながらも、田西はその言葉を受け止める。
そしてヤクザを倒したのは、前に自分を殴った、ジャージ姿の女の子だと聞かされる。
その女の子が知り合いだと聞いて、心境が変化するちはる。 ・・・この辺りのちはるの心境が少し難しいのだけれど、 微妙な「嫉妬」が含まれているのだろうか?
その答えは、次の衝撃シーンで現れてるのかもしれない。

突然の、キス。
・・・
・・・えええ!?
 「元気出た?」
ちょ。
微妙に引いてる糸が、何か生々しい!!
ちはるちゃんの表情が良すぎる。 なんつーか、「女」の顔だよなぁ。 「元気出た?」のセリフもツボに入った。 元気出ますとも。
このキスが、田西のもやもやした気持ちの全てを吹っ飛ばした。
いやぁ正直驚いた。 田西も驚いてると思うけれど、読者も驚いた事でしょう。 と同時に、女の子の気持ちの難しさも感じた。
まがいなりにも田西に好意を感じ、「好き」の気持ちが芽生えていたちはる。 だからこそ、一緒にお風呂にも入ったし(真っ暗な中で) 手も繋いでいた。
そんな始まりの第一歩を、突然の悲劇が台無しにした。
それはちはるにとって不本意だったろうし、 自分が好意を寄せてる人が見せた弱さ。 それがちはるの母性本能をくすぐったのか。
そしてその好意を寄せてる人が持つ、自分じゃない女性との関係。 それがちはるの嫉妬心をくすぐったのか。 そんな自分自身の心に沸いた「怒り」を鎮める為にした・・・キスなのか?
この時だけのキスなのか?
それとも・・・?
女の子の気持ちは分からない。 花沢先生はどういう心境でこのシーンを描いたのか。 是非一度聞いてみたい気もする。
一言も言葉を発さなかったジャージ姿の女の子。 ちはるの姉、という予想は外れたが、 今後この子がまたどんな風に物語に絡んでくるのか。 それを考えただけでも、まだ先の楽しさが沢山あって、嬉しい。
■【まだまだ目が離せない、ボーイズ・オン・ザ・ラン】 というわけで「長い一日」が終わりを告げた。
青山くんに相談し、ビアガーデンに行き、バッティングセンターへと行き。 ラブホテルに入り、お風呂に入り、自分を縛りながら寝て。 不意に訪れた悲劇、ブザマな姿をさらけ出し、 ジャージ姿の女の子がその窮地を救った。 そんな地獄から救い出してくれたのは、女神からのキス。
やはりこの作品に魅力を感じるのは、 どれもこれも本当にありえるエピソード。 全部が、どのシーンも、自分に置き換えて見る事が出来る。
「自分ならどうするか?」
主人公に自分を置き換えて見る事が出来、 そして自分はどんな「ラン」をするのか。妄想する。
そんな魅力に溢れるこの作品が今後どんな展開を迎えるのか? 非常に楽しみで堪らない。 まずはこの作品を読んだ事ない人に、11月末発売のコミックス第1巻をオススメする。

騙されたつもりで、是非読んでみてほしい。 特に同世代の、20代後半の男性に強くオススメする。 大好きな子の為に一生懸命になる。 そんな青春をもし忘れてたら・・・是非。
もう一度走り出そう。
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